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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)6835号 判決

原告

渋谷義夫

右訴訟代理人

北岡満

被告

右代表者法務大臣

倉石忠雄

右指定代理人

大敢

外五名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一先ず、被告の除斥期間経過に関する主張について考察することとする。

民法七二四条後段所定の「不法行為ノ時ヨリ二〇年」とする期間が消滅時効期間か除斥期間かについては議論の存するところであるが、同条前段所定の三年の時効期間の起算点が被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知つたときになつており、加害者の法的地位が被害者側の主観的事情によつて浮動的であることにかんがみ、他面より加害者の法的安定をはかるために、被害者側が損害および加害者を知らなくても不法行為の時より起算することとし、ただその場合被害者側が実際に権利の行使ができないのにかかわらず期間の進行を認めることになる点を考慮して、一般の消滅期間を倍加して二〇年とされたものであるところ、右の二〇年の期間はかなり長期であり、その上さらに中断を認めて期間の伸長を許す結果となることはその趣旨に反するものと考えるから、右の二〇年は除斥期間であると解するのが相当である。

ところで、原告は、右の「不法行為ノ時」というのは不法行為の要件である被害の発生の時と解すべきであり、もしそう解さなければ損害賠償請求権の発生しないうちに除斥期間が進行し、損害賠償請求権が発生したときには既に除斥期間が経過しているという不当な事態が発生しかねない旨主張する。

なるほど、理屈の上では原告指摘のような事態も生ずるわけであるが、右の「不法行為ノ時」を加害行為の時と解しても右の二〇年の期間はかなり長期であるから、通常の場合、不法行為によつて招来される損害は加害行為の時から二〇年の期間内に発生するものであり、原告指摘のような不当な事態が実際に発生するものとは思われない。もともと、右の二〇年の期間は前記のとおり被害者側の主観的事情による浮動性を排除して、加害者の法的安定をはかるために、被害者が損害および加害者を知らないため実際上権利の行使ができないのにかかわらず期間の進行を認める建前であること、しかも、加害行為の時から右の二〇年の期間の進行を認めても、その期間内に通常損害も発生することおよび不法行為に基づく損害は、債務不履行の場合と異なり、未知の当事者間において予期しない偶然の事故に基づいて発生するのが特色であるから、加害者としても損害の発生およびその態様を知ることができないこともあり得るので、加害者にとつて明らかな加害行為の時をもつて右の二〇年の期間の起算点とするという考え方にも一応の合理性があることに徴すると、右の二〇年の期間は加害行為の時から起算すべきものと解するのが相当である。

この点に関し鉱業法一一五条一項後段は鉱害について「損害の発生の時から二〇年を経過したとき」に損害賠償請求権が消滅する旨を規定しているが、それは鉱害の場合には加害行為の時と損害発生の時との間に時間的経過を要することが多いために民法の前記条項に対し特別の規定を設けたものであるとされていることからしても、前記のように解釈すべきである。

ところで、〈証拠〉によると、被告が原告に対し本件(一二)ないし(一九)、(二二)、(二三)土地の買収令書を交付したのは昭和二三年一〇月二日であり、かつ被告が福田寅治外に対し右各土地の売渡通知書を交付したのは昭和二四年四月三日であることが認められるとともに、本件訴が提起されたのは昭和五二年一一月三〇日であることが記録上明らかであるから、原告主張の本件損害賠償請求権は右買収令書交付時、遅くとも右売渡通知書交付時から二〇年の除斥期間が経過したことにより消滅したものといわねばならない。

原告は、被告の加害行為は被売渡人らが右各土地の所有権を完全に取得した取得時効期間完成時まで継続していたものと解すべき旨主張するが、そのように解すべき理由はないから右主張は採用しない。〈以下、省略〉

(高山健三)

別紙目録〈省略〉

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